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author : optical engineer

おわらないなつやすみ

蝉の声。アスファルトの焼ける匂い。

小汚いリノリウムの緑色。
剥げた手すりの黒い色。
こすれて薄汚れた壁の白。

人の気配のしない特別棟。
建材の匂いでむせかえるような螺旋階段。
校庭から時折、本当に時折、運動部の音が聞こえて。

もしも私に永遠があるとすれば、あの中学の頃の夏休み。
毎日毎日、プログラムも組まずに入り浸った化学実験室。
だらだらして、セブンイレブンの十割そばを食べて、
アニメの話したり益体もない妄想をしたり。

そこに日常なんてノイズはなくって。
ただただ想像で満ちあふれていた。
そこに他者はなくって。
違う視点と共通する世界を持った、
仲間とさえ呼べない未分化な群体だった。

もしも永遠があるとすれば。
そこでは日常は意味を無くし、
ただ想像にのみ意味のある世界だろう。

そこにはもう戻れないと知っているから。
そこにいる資格はとうに失われたと知っているけど。

他者が日常に押し潰されていくのを見るのは辛いし、
自己が日常に染まっていくのを感じるのは、
まるで本来の皮を剥がれ別の皮をあてがわれるようで。

それを変化だと呼ぶのだろうけれど。
それはまるで堕落のように思えてしまって。
だからこの季節の始まりは、少ししんどい。
忘れようとしなきゃいけなくなるから。

成長できるようになったピーターパンは、死にたいとは思わなかったのだろうか。
大人になる喜びに、満ちあふれていたのだろうか。

「大人になりたくない」わけじゃない。
「子どもであること」を忘れたくない、だけだと、思う。